映画

出発点―1979~1996

先日、NHKスペシャルで『終わらない人 宮崎駿』という宮崎駿特集があったのですが、映像の中に、ドワンゴの川上量夫に対して宮崎駿が憤っているようにみえる場面があり、方々で話題になってるようです。

川上さんがジブリに訪れ、人工知能、CGに関する取り組みについて、宮崎監督にプレゼンをします。そこで、川上さんは”頭が大事という概念と痛覚がなく、地面を這いずり回る気持ちの悪いCGの生き物”について紹介をします。それを見た宮崎監督が「生命の侮辱を感じる」と返します。川上さんはその強い口調に狼狽え上手く言葉を返すことができません。

そのシーンでの応酬を以下引用します。
〈川上量夫の発言〉

とりあえず今日は人工知能で映像処理をするっていうのがあちこちこで発表されてるんですが、うちのほうでもこういうことやってますという説明です。

これは早く移動するっていうのを学習させたやつなんですね。これ頭を使って移動しているんですけど、基本は痛覚とかないし頭が大事っていう概念がないんで、頭を足のようにつかって移動している。

この動きが気持ち悪いんでゾンビゲームの動きに使えるんじゃないかって。

こういう人工知能を使うと人間が想像できない気持ち悪い動きができる。
こんなことをやってます。


- 『NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」』(NHK)
〈宮崎監督の発言〉

あの~毎朝会うこの頃会わないけど身体障害の友人がいるんですよ。ハイタッチするだけで大変なんです。彼の筋肉がこわばっている手で僕の手でハイタッチするの。その彼のことを思い出して、僕はこれを面白いと思ってみることはできないですよ。

これを作る人たちは痛みとか何も考えないでやっているでしょう。極めて不愉快ですよね。そんなに気持ち悪いものをやりたいなら勝手にやってればいいだけで僕はこれを自分たちの仕事につなげたいとはぜんぜん思いません。

極めて何か生命に対する侮辱を感じます。


- 『NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」』(NHK)


この応酬をめぐって今方々でさまざまな意見が錯綜しているようです。
とりわけ目を引くのは宮崎駿ぶち切れ!というセンセーショナルなタイトルの動画や記事です。しかし、僕はどうも宮崎監督が悪い意味で感情的になってるとは思えないのです。

宮崎監督は自らの中に生まれた不快な感情について率直に表明をして、川上さんの反応を見ている。また、自らの感情について向き合うことでその整理しているようにも見えるのです。

宮崎監督が本当に怒った場面
その典型な場面が『ポニョはこうして生まれた』にあります。不躾にカメラを回し続けた荒川さんに「僕は本当は不機嫌な人間なんだ」と怒り、はっきり拒絶の意思を表しているシーンです(ちなみに、件の荒川さんは『終わらない人 宮崎駿』のディレクター)。少なくともこの瞬間ははっきりもう帰ってくれという意思を示しています。

これほどの拒絶感は今回感じられませんよね。今回は、あくまで「僕は不快でした。あなたはどう思いますか?」という問いかけをかなり冷静に行っているように思います。

また、川上さんと宮崎監督の関係性にも注目すべきです。僕は、ジブリのラジオである「ジブリ汗まみれ」もすべて聞いてきた人間ですが、ラジオを契機として、川上さんはジブリ見習いになって長いわけです。見習として多くのジブリ作品にも携わってますし、ジブリのドキュメンタリー映画『夢と狂気の国』ではプロデューサーも務めています。原発をめぐる座談会、コクリコ坂のニコ生を通した広報など様々な場面で顔を合わせている関係です。

監督と川上さんの間には一定の信頼関係があるわけです
だからこそ、監督の件の冷静な指摘の背景には諭すような柔らかいニュアンスがおのずから含まれているように思うのです。

さらに、付け加えるならば、今回の映像は編集されたものだということです。答えに窮して狼狽する川上さんのカットの後に、監督と川上さんのいくつかのやり取りがあったかもしれません。それは、編集された映像を見るしかない我々には分らないことです。


このように二人のやり取りにはいくつかの背景、見えない文脈があるのです。これらのことを十分に留意する必要があるでしょう。これらの背景を踏まえれば、宮崎監督激怒!と言えるような場面ではないんじゃないかと思うんです。方々の激しいやり取りを見ていると、もう少し文脈を踏まえて、抑制の利いた議論をするべきなんじゃないかという気がします。





2016年11月16日│Comments(0)

WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~ DVDスタンダード・エディション

久々の更新です。今回は、「wood job」という邦画を紹介します。この映画は「あ~都会って疲れるわぁ。やっぱ田舎最高だわ。つうか林業でもやって自然の中で暮らしてえ」なんて甘い考えの自分みたいな人間に見てほしい。そして、伊藤英明に首根っこつかまれてほしい。ちなみに、寄生獣でも主人公を演じた染谷将太が主人公役や林業の先輩役が伊藤英明、ヒロインが長澤まさみというなかなか自分好みなキャスト陣です。

話を簡単に説明すると、大学受験に失敗した主人公が、パンフレットの表紙の長澤まさみに惹かれて林業研修プログラムに参加。力仕事、厳しい上司、携帯の電波も届かない不便利な生活に悩まされながらも林業や田舎ならではの濃密な人間関係をとおして人間的に成長していくというものです。

とにかく、この映画の見所は林業の先輩伊藤英明の厳しいけどデレたら優しい山の男感。伊藤英明は、悪の教室みたいなサイコパスの演技もくっそうまいんだけど海猿的な熱い男もうまいんだよなあ。

林業をなめてかかってる主人公を認め始めた伊藤英明が、主人公を山の男として認めない老人たちに対して一言。
こいつはほとんど役に立たんけど、ちゃんと山の男や!!
あーもうこういうの最高やで。とにかく暖かさを感じる映画です。


自然となんらかかわりのない生活を送って、となりのトトロような映画ばっかりみてると「自然っていいな」という考えばかり先行してフィクションの中で「自然の中で生きたい」と言い出す。それはとても不健全に思えるから、こういう映画にときには触れてみたほうがいいかもしれませんね。


ちなみに、宮崎駿監督も『バカの壁』の養老孟司氏との対談の中でこのように語っています。
漫画とかアニメーションばかりみてると基礎になるものがなくなる。基礎がトトロじゃ困るんですよね。湿度がないでしょ。僕らはトトロの風景かいてるときにむんむんして蛾がいっぱいとんできてね。

映画館の中はとてもそういうのは伝わってきませんから。そういう状態で日本は綺麗だと思うのと実際生活するのは違うことなんで。

- 『こどもたちへ 宮崎駿・養老孟司の対話』(NHK教育)

個人的には、トトロを見た後、wood jobを見てほしいですね。一緒に見るといろいろ考えちゃって面白いですよ。





2015年08月29日│Comments(0)

マトリックス 特別版 [DVD]1999年のアメリカ映画

監督:ウォシャウスキー兄弟

あらすじ:wikipedia


金曜ロードショーで放送してたので久々に見ました。やっぱり面白かった。当時漫然と見たときは、預言者の予言がはずれたことがわけ分からなかった。今見てみると"花瓶のシーン(預言者が「花瓶に気をつけて」とネオに予言することで花瓶が倒れた)"や"モーフィアスの「道を知る事と、実際に歩くことは違う」という発言"から預言者の嘘の真意が読み取れた。それが分かってみると妙に哲学的な映画に見えてきてゾクゾクしてきた。

CGによる映像美も素晴らしい。3DとCGは使い様というのがよく分かる作品だ。そういえば、押井守の3D映画批判を昨日見た。押井曰く3Dの演出で成功してるのは"アバター"だけらしい。映像は素晴らしかったが、作品としてはつまらなかったアバターだけに「確かに!」と力強くうなずけないがちょっと納得した。

見ているとかっこいい俳優達の今昔に興味が沸いてきた。キアヌ・リーブスやローレンス・フィッシュバーンはよく見るが、スミス役の人やトリニティ役の人は見ない気がする。そこで調べてみるとやはりトリニティ役のキャリー=アン・モスの最近の露出は少ないようだ。しかし、スミス役のヒューゴ・ウィーヴィングに関しては超大御所でした。『ベイブシリーズ』『ロードオブザリングシリーズ』『トランスフォーマーシリーズ』に出演。これは知らなかったのが恥ずかしい///。

俳優・映像・深いテーマ性。重要な要素が3つも揃ったマトリックス。面白いわけだ。



2011年06月25日│Comments(0)